「自然がほほえむとき」(東京大学出版会)の表紙を見て思わず微笑んだ。
これは自然科学者・伊沢紘生先生(宮城教育大学名誉教授)の新刊。
前回の著書「新世界ザル 上・下巻」(東京大学出版会)は、先生の集大成というべき読み応えのあるアマゾンの物語だった。
壮大なアマゾンの動物たちと熱帯雨林の物語――熱帯雨林をすみわけて進化した新世界ザルの生きざまを通して、究極のフィールドワーカーがたどりついた動物たちにとっての〈種の誇り〉とはなにか? 世界的な霊長類学者による新世界ザル研究の集大成。
今回のご著書は伊沢先生らしいというか、先生の優しさがそのまま表紙になったような感じで、思わずほほえんだ。
エッセイ&フォトという形式で装丁もブックカバーがはずせないという、読者思いの工夫を凝らしてある。
写真は長年フィールドワークを共にしてきた動物写真家、松岡史郎氏との共著。綺麗な写真が先生のエッセイをより現実へと想像を湧き立てる。素敵な本、というのが私の感想。
「第7章子供たちとともに」では先生が教育者として自然と子供たちをどのようにとらえているのか、とても勉強になった。
また、私が以前に先生から教えて頂いた学びの原点について「まえがき」に書かれていた。
私はこれまで、自然を対象にしたフィールドワークは、五感と五力の総合科学だといってきたし、自らにいい聞かせてもきた。五感とは、五官を通して外界の事象を感ずる視、聴、嗅、味、触の五つの感覚であり、誰もが知っている。私はそれを、自然の中で、最大限研ぎ澄まそうと努めてきた。そうしないと、観察力を養うことができないからだ。では、観察力とは何か。観察する力とは、研ぎ澄まされた五感が受け取るさまざまな情報や事象に対し、直観力、類推力、洞察力、想像力、独創力の五力を、フルに稼働させることである。これら五感と五力を磨いていくと、自然は、いわゆる「自然科学」のわくを超えて、なお刺激的になる。すでに「総合科学」としかいいようのない領域に入っているのだ。
「まえがき」より
形に捉われない独創力をこの本をもって示していただいたようだ。
本書は、エッセイに写真集が盛り込まれている構成だ。
サルの研究に留まらず、カモシカ、イノシシ、クマなどのけもの、鳥、虫、そして植物の視点が盛り込まれている。伊沢流、自然の親しみ方をぜひご覧ください。
内容紹介
青森県下北半島,宮城県金華山島,石川県白山……サル,カモシカ,シカ,クマ,イノシシなどたくさんの動物たちが暮らす豊かな森を歩き続け てきたサル学者と動物写真家が,美しい日本の自然を愛するすべての人たちへ贈るメッセージ.味わい深いエッセイと珠玉の写真で綴る野生動物記.オールカ ラー.
主要目次
はじめに(伊沢紘生)
第1章 誇り高く生きる
第2章 群れるということ
第3章 奥深き山で
第4章 野生と人と
第5章 けものたちのドラマ
第6章 生きものたちの世界
第7章 子どもたちとともに
おわりに(伊沢紘生・松岡史朗)
★2016/7/25
「自然がほほえむとき」 伊沢 紘生 (著), 松岡 史朗 (写真)
(東京大学出版会)
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伊沢紘生(著)(東京大学出版会)
新世界ザル 上: アマゾンの熱帯雨林に野生の生きざまを追う
新世界ザル 下: アマゾンの熱帯雨林に野生の生きざまを追う